みんなde読書

慶河堂の読書感想ブログプロジェクト【みんなde読書】のサイトです。

本当の苦しみは——『ホロコースト 最年少生存者たち』レベッカ・クリフォード

2020年にコロナ禍に対峙しようとしてご協力を得て始めた【みんなde読書】ですが、私自身の怠慢により、昨年は2記事しかあげられませんで、申し訳ございませんでした。 感想記事をあげたいと思う本をきっちり読むという作業もサボっていたので、本当に申し訳…

偉大なる父の死をめぐって——『父ガルシア=マルケスの思い出』ロドリゴ・ガルシア

父ガルシア=マルケスの思い出-さようなら、ガボとメルセデス (単行本)作者:ロドリゴ・ガルシア中央公論新社Amazonこの本はタイトルで解るとおり、ラテンアメリカ文学を代表する偉大な作家ガルシア=マルケスの臨終前後を記した本である。書いたのはその長子…

愛するあなたの足跡を追ってーー『清少納言を求めて、フィンランドから京都へ』ミア・カンキマキ

清少納言を求めて、フィンランドから京都へ作者:ミア・カンキマキ草思社Amazonこの本はタイトル通り、一人のフィンランド女性が平安時代の女性作家である清少納言の足跡をたどるために日本にやってきて過ごした日々のエッセイである。 今風のラノベのタイト…

私が殺しましたーー『エルサレム』ゴンサロ・M・タヴァレス

エルサレム作者:ゴンサロ・M・タヴァレス河出書房新社Amazon5月29日の夜明け前、主人公ミリアは激痛に苦しみながら町を彷徨う。開いている教会を探しているが、時間のせいもあり、中には入れてもらえない。ミリアの元恋人であるエルンストは彼女から電話を受…

私は貴女を待っていた——『クララとお日さま』カズオ・イシグロ

クララとお日さま作者:カズオ イシグロ発売日: 2021/03/02メディア: Kindle版 2017年にノーベル賞を受賞したカズオ・イシグロの受賞第一作で、最新の長編となるこの作品。 大きなひまわりと少女が描かれた表紙は穏やかな絵であるにも関わらず、どこか寂しさ…

「普通」という名の空虚な理想についてー『元女子高生、パパになる』杉山文野

元女子高生、パパになる (文春e-book)作者:杉山 文野発売日: 2020/11/11メディア: Kindle版取材したあとも、それだけで終わるのではなく、その後どうなさっているか気になる人がいる。 私にとってはこの方がそうだった。 杉山文野さん。 フェンシングの元日…

あなたは(わたしは)ひとりではない——『彼女たちの部屋』レティシア・コロンバニ

彼女たちの部屋作者:レティシア コロンバニ発売日: 2020/06/18メディア: 単行本作者のレティシア・コロンバニはフランス・パリ生まれの映画監督・脚本も手がける小説家である。映画監督として制作した『愛してる、愛してない…』は日本でも公開された。2017年…

先生と居れば春——『漱石先生』寺田寅彦

漱石先生 (中公文庫)作者:寺田 寅彦発売日: 2020/07/22メディア: 文庫寺田寅彦は明治から昭和初期にかけて生きた物理学者であり、多くの随筆を残している。また俳人としても知られる。「災害は忘れた頃にやってくる」という言葉を残した人だと言われている。…

ぼくが、きみを、しってる——おかざき真里『阿・吽』11巻

阿・吽 (11) (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)作者:おかざき 真里発売日: 2020/03/12メディア: コミックオススメがマンガなのが店長の偏った趣味を類推させますが、このマンガは普段あまりマンガを読まない人にも是非ともオススメしたいマンガ。特に歴史や宗教…

ここにはもう、きみがいない——野村克也『ありがとうを言えなくて』

ありがとうを言えなくて作者:野村 克也発売日: 2019/03/29メディア: 単行本これは2020年2月11日にお亡くなりになった野村克也さん(以後ノムさん)が、妻野村沙知代さん(以後サッチ—)の死について書いたエッセイである。ノムさんは『野村ノート』をはじめ…

文豪の青春の記録——和田茂樹編『漱石・子規往復書簡集』

漱石・子規往復書簡集 (岩波文庫)発売日: 2002/10/16メディア: 文庫明治の文豪夏目漱石と俳句や和歌で名を残した正岡子規。それぞれ非常に有名で人気のある作家であるが、この2人が同窓生であり、とても仲のいい友人同士だったということを知っている人はそ…

突き刺さってきた他者——柳原孝敦『テクストとしての都市 メキシコDF』

テクストとしての都市 メキシコDF作者:柳原孝敦発売日: 2019/11/11メディア: 単行本長らく、メキシコ・シティはD.F.(デー・エフェ「メキシコ連邦首府」の略)と呼ばれていた。2016年にメキシコ・シティが首都の正式名称とされ、現在では虹色のカラフルな…

永遠に美しいもの——松岡環『レスリー・チャンの香港』

レスリー・チャンの香港作者:松岡 環発売日: 2008/03/01メディア: 単行本4月1日。今年はさすがにコロナ禍のせいで浮かれている人はあまりいないが、毎年エイプリルフールを楽しむ人が増える。最近はSNSが発達したので、プロモーションの一環でもあるのだろう…

誰にも等しく訪れるもの——長谷敏司『あなたのための物語』

あなたのための物語 (ハヤカワ文庫JA)作者:長谷 敏司発売日: 2011/06/10メディア: 文庫西暦2083年、人工神経制御言語ITPの開発者であるサマンサ・ウォーカーは、仮想人格《wanna be》(なりたい)に小説を執筆させ、「かれ」の想像力を育てようとする。日々…

女という軛から放たれて——秦和生『カイニスの金の鳥』

カイニスの金の鳥 1作者:秦 和生発売日: 2019/09/15メディア: コミックカイニスの金の鳥(2)作者:秦 和生発売日: 2020/02/16メディア: コミック19世紀初頭、ヴィクトリア朝以前のイギリス。地方の中産階級の家に産まれ育った少女リア・ボイドは小説家になる夢…

この本で世界を変える——ラーラ・プレスコット『あの本は読まれているか』

あの本は読まれているか作者:ラーラ・プレスコット発売日: 2020/04/21メディア: 単行本革命に揺れるソ連で医師で詩人であるジバゴの愛と波乱の生涯をかいた名作『ドクトル・ジバゴ』。この1冊の小説の発行をめぐって、アメリカとソ連の「冷たい戦争」がくり…