- 作者:秦 和生
- 発売日: 2019/09/15
- メディア: コミック
- 作者:秦 和生
- 発売日: 2020/02/16
- メディア: コミック
「自分の本」を手にしたリアはアランとしてロンドンへ向かうことを決める。髪を切り、ドレスを捨てて、男の格好をして。
ロンドンへ到着したアランは、同じく小説書きのマイルズ・キーツと出会う。一時は実家に帰り、普段の日々を送っていたリアだが、ひょんなことからマイルズの隣室に住むことを勧められ、ロンドンに引っ越すことを決める。気さくなマイルズとの関わりから、作家仲間もでき、新たな小説の執筆も進み、ロンドンでの生活は続いていく。
「女だから」
「女は男より劣ってるものだから、書けるわけないっていうのよ」
一体いつまで、この黒い感情と生きなきゃならないのか
私はあなたが無意識に受け入れてるこの世のしくみが何もかも気に入らないのよ
「女だからやめておけ」「女のくせにできるわけがない」——主人公リアに浴びせかけられる言葉は、女性ならば一度は言われたことがある言葉だろう。言われるたびに小さな傷を作っていく言葉の棘に、たいていの女性たちはどこか絶望を感じながら、「女」としての道を進んでいく。しかしこの作品の主人公リアはアランとして生き始めることで、女としてではなく「人」として生き始める。
マイルズや変わり者のダンヒル、実は女性であるジャレッドといった作家たちとの交流はリアの思考と生活を豊かにしていく。
普通の人が考えつかない発想をし、たとえ偏見があってもそれを正して関係を結ぼうとする「想像力がある」人々に囲まれるというのがどれだけ幸せなことか、アランとしての生活は教えてくれる。
リアの男装については、実はマイルズにはもうバレてしまっているのであるが、だれもそれを責めようとも追求しようともしない。ただ側にいて、「小説を書け」とだけ言ってくる。それはとても「あらまほしけれ」な友情であり、仲間愛だ。
女であるという重力から放たれ、小説家として生きるリアが今後どのような人や事件に遭遇し、どのような人生をおくり、どのような小説を書いてゆくのかがとても気になる。
一見重くなりがちなテーマを持つ作品であるが、透明感のあるやさしい絵柄としなやかな書きぶりがその重さを感じさせない。そしてこれから何かがはじまっていくという予感が作品をつつんでいるからなのかもしれない。
既刊2巻、Web文芸誌Matogrossoにて連載中。
matogrosso.jp