- 作者:長谷 敏司
- 発売日: 2011/06/10
- メディア: 文庫
SF小説にいまいち入りきることができないという人は一定数いると思う。なんとなく想像がつく日本の時代小説や、現代を舞台にしたミステリなどとは違って、登場人物が脳内で動き出す前に、まずどのような世界観であるかを理解しなくてはいけない。文体が持って回ったような言い回しが多ければさらに困難だ。だから読まない、そういう人も少なくない。
しかしこの本はそういう人にこそ読んで欲しい一冊だ。
スニーカー大賞金賞でデビューした筆者は『円環少女』シリーズなど、長くライトノベルの分野で執筆を続けてきた作家である。文章は海外SF「らしい」文体を模倣しており、登場人物が外国人のため一見海外作家が書いた小説のように感じられるが、文章は読みやすく、時系列に流れる構成はどんどんと読者を惹きつけていく。
姿はSFというかたちを取っているが、そのテーマは「死とは——ひいては生とは——どういうものか」という人類にとって根源となる問いだ。
生きるとは何か、死ぬとは何か。人とは何か、人でないとは何か。
その境界線がいったいどこにあるのか、明確に知っている人は何処にいるのか。
AIが身近になってきた今こそ、考えてみたい命題だ。
普段深く考えないことにどっぷり浸かって考えてみる。本を閉じたあと、見えてくるのは本を読むまえより、少し違った世界である。