みんなde読書

慶河堂の読書感想ブログプロジェクト【みんなde読書】のサイトです。

ここにはもう、きみがいない——野村克也『ありがとうを言えなくて』

ありがとうを言えなくて

ありがとうを言えなくて

これは2020年2月11日にお亡くなりになった野村克也さん(以後ノムさん)が、妻野村沙知代さん(以後サッチ—)の死について書いたエッセイである。ノムさんは『野村ノート』をはじめ、野球論や球界逸話本を多く執筆しているが、この本は徹頭徹尾妻沙知代さんとの出会いと別れ、そして妻を亡くした心境を語っている。ノムさんは御本人が仰っていたように「生涯一野球人」であった人なので、野球についての話はもちろん出てくるが、それは野村夫妻を語る上で、背景であり、主題ではない。
ノムさんの奥さんであるサッチ—が虚血性心不全でお亡くなりになったのが2017年であった。彼女が不倫・脱税・経歴詐称など、何度もワイドショーを騒がせたことはよく知られているだろう。ノムさんはそのたびに責任を取らされ、監督職から外されてもいる。しかしノムさんにとってサッチ—は女神であった。危機があるたびにノムさんはサッチ—を選び、彼女が選んだ仕事で、才能を開花してゆく。
ノムさんといえば、講演会や解説者の仕事であるが、その差配はすべてサッチ—が行っていたらしい。ノムさんは自分がいくら稼いでいるかもしらずに、あちこちに飛んでは講演会を行った。