みんなde読書

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安房直子作品と手の温もり——PlanetHand/やしまさん

新しく【みんなde読書】に参加してくださる執筆者さん、PlanetHandのやしまさんの紹介です。

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小さな宇宙を感じさせるPlanetHand店内

2021年11月下旬友人が、児童文学作家安房直子さんの作品にちなんだ雑貨の展示・販売会があり、それに参加すると教えてくれた。たまたまその展示の最終日の前日に東京で用事があり、コロナも少々大人しくなっていた時期だったので、友人に連れられてその展示・販売会に行くことになった。
西武池袋線で池袋から二駅、東長崎の駅前にあるという。池袋で待ち合わせ、あっというまに東長崎に着いた。

PlanetHandは東長崎駅北口から歩いてすぐ。レンタルスタジオとギャラリー・ショップを備えている。右側にある細い階段を上がって二階にあるのが、今回展示・販売が行われているスペースだ。
https://www.planet-hand.com/


友人と私を迎えてくださったのはオーナーのやしまさん。
【みんなde読書】に興味を持ってくださり、「百冊日記帖」の販売も引き受けてくださった。本がつなげてくれる縁を感じた。それこそがやしまさんがこのスペースを作ろうと思ったきっかけなのだという。
帰宅後しばらく時間がかかってしまったが、やしまさんにお話を伺った。

■「PlanetHand」ってどういう意味・由来なんでしょうか?
もともとは「PlanetBlue」——「地球」そのもののことでした。十人十色の人が居るのが地球で、みんな違って当たり前…というコンセプトで、店に置くものは統一されたひとつのテイストではなく、いろんな作家さんのものをそろえた柔軟な場所でありたいと思いました。
2013年頃に移転して、場所の形態が変わったときに「手の惑星」——人と人の手がつながるような、人の手の温もりが伝わるような作品を置きたいということで、「PlanetHand」という名前になりました。

■「PlanetHand」を開いたきっかけは?
わたしは三歳から東長崎に住んでいたのですが、地元に魅力を感じていなかったんです。高円寺とか西荻窪とかの、駅ごとに特徴がある中央線文化に憧れていて、とくに西荻窪の町が好きでした。
子育てするために実家の近くに戻ることになって、ずっとつまらないと思っていたところに戻るのが嫌だったんですが、じゃあ西荻窪で楽しかった雰囲気のことを自分でやればいいんだ、そういう場を作ればいいんだと思ったのがきっかけです。
ものを作るのが好きではあったけれども、既存の雑貨屋さんでは、お店のカラーにそった企画が多く、こういうテーマで……と言われることが多かったので、もっと作家さんよりの場所を作りたかったんです。
昔ながらなんだけど新しい、どこか懐かしい場所。作る人にとって自由な世界。
自分の中になかった世界が西荻窪にはあって、そういう場所を目指したいと、自分もデザインしたものを販売するようになっていました。

■そういった活動をはじめられたのはいつ頃からですか?
97年、98年頃くらいですね。
ネット通販もなくて、インディーズブームが起こる前。
今は全国にそういう店も増えましたけど、まだ東京でもめずらしかったです。メールインフォメーションとかを出したりしてましたけど、まだ携帯電話でやっていたくらいの時期です。
その頃にデザインフェスタに行って、そのエネルギーに驚きました。当時は紹介も何もかも口コミでしたね。

■時期は戻りまして、やしまさんはどんなお子さんでしたか?
両親と兄姉がいるのですが、年が離れていて、親はものがない時代を過ごした世代だったので、端切れや紙、かまぼこの板なんかをたくさんとっておく人でした。それを使って人形の洋服作ったり遊びに使ったり……ということが普通にありました。ルームシューズを舟に見立てて遊んだりとか、魔女ごっこをしたりとか、想像力が養われたのはあるかもしれません。
本を好きになったのは、子どもの頃、それこそ夜寝る前に読み聞かせをしてもらっていました。兄姉の蔵書から、萩尾望都さんや大島弓子さんの本を借りて読んだりしていました。兄はいつも岩波の分厚い本を買ってきてくれました。本がたくさんある、本好き一家に育ちました。自然と本好きになりましたね。
読んでいたのはファンタジーや児童文学、具体的には岩波少年文庫やちくま学芸文庫のシリーズ、ミヒャエル・エンデ、ジョージ・マクドナルドなどでした。
青い鳥文庫やクレヨン王国のシリーズ、メアリー・ノートンの小人の冒険シリーズ、日本のヤングアダルトでは、氷室冴子さんの『ざ・ちぇんじ!』などを読んでいましたね。
マンガも好きで、白泉社発行の雑誌、花とゆめ・LaLaなどが好きで、日渡早紀さんのアクマくんシリーズ、成田美名子さんの『エイリアン通り』、雑誌「ぶ〜け」の吉野朔美さんや内田善美さんの作品なんかも読んでいました。
特に萩尾望都さんのはよく読んでいて、ハインラインやブラッドベリといったSF原作の作品を読んで、そこからいろいろなものを知りました。野田秀樹さんの演劇とか。
他にも本を入り口にして知ったことは多いです。雑誌のOliveを読んで、フェルトの帽子を作ってみたり、ハンドメイドもその頃からはじめて、こんなふうなものがあれば……と自分でちくちく作ってみたりしてました。

■本とクラフトが自然にあった感じですね。
でも離れたときもあったんです。いくら好きであっても、何にもならない、それだけで生きていけるわけではないと、意識的に離れた時期がありました。ちょうどハイティーンの頃、好きなものを封印していました。その後21,2歳で出産して、よけい時間がなくなりました。
でも当時写真評論家の事務所に通っていまして、何かを作ることはやっていました。詩作や写真、コピー本や新聞作りなど、今でいうならZINE作りみたいなことをやっていました。レコードレビューの豆本を作ったり、コラージュをしたり。

■安房直子先生作品との関わりはいつ頃からですか?
小学校の図書室で、課題図書として何気なく読んだのがはじめだと思っていましたが、それより前、幼稚園くらいに好きで何度も読んでいた作品が安房さんのものだとわかりました。安房さんのファンの方に聞くと同じような体験をしている人が結構いるんですよね。
作者も本のタイトルもうろ覚えで、なんて不思議な話なんだろうとずっと忘れられなかった作品が安房さんの作品との再会でした。ちょっと高かったちくま文庫を読んで、忘れてたけどこの人だ、と思い、ずっと持っていました。並べておくだけだけど、あると不思議な安心感がありました。
PlanetHandを再開し、2019年に2階に戻そうとして、方向性を考えていたときに、安房さんの作品に登場する料理のレシピを作っている人に出会いました。
当時インディーズブランドとして、服や帽子を作っていて、縁ができた人から帽子を作って欲しいと言われ、「安房さんの作品っぽい帽子できちゃった!」とツイートしたら、安房さんの作品を好きな同志人に出会いました。
そのうちに安房直子記念会ライラック通りの会の方と出会いまして、そこで物語をもとに作品を作って輪を広げるアイデアをお話したらとても素敵な笑顔を感じたので、独自のテーマ展として安房さん作品をモチーフにした作品を作って置こうということになりました。
はじめは20人くらい。もともと安房さんを好きな作家さん8名ぐらいと、他のクラフト作家さんで、参加費から全員に展示参加の特典として御本をプレゼントしていました。そうすれば本の売り上げや注目度も上がるからです。そして安房さん作品からなら何でも可ということにしてみたら、チャレンジしてみておもしろかったという反応が多くて、定期的にやることになりました。

■安房先生の作品の魅力はどういったところですか?
時代や読者の世代、読み方で感想が変わるところですね
『きつねの窓』という作品があるのですが、ある人は反戦の話だと思ったと。でも反戦の文字は全然出てこない。私はひきこもらないでいろんな世界に広がっていこうというメッセージを感じました。他者と交わろうという話だと思いますが、今の時代だといろいろ考えさせられますよね。
あと、主人公がいい人ばかりではないんです。たとえば盗みをはたらいてしまったり。そこで自由に考えさせてくれる。子ども向けだけれども、押しつけがましい説教的なところがない。
最終的には読んだ人が希望を感じられるような話だったり、主人公が可哀想に見えても実はそうじゃないんじゃないかと考えさせられたり、いろんな面や見方を感じさせてくれる。自分の身によせて考えさせられます。だからきっと感想が人によって変わってくるんだと思います。
不思議な読後感なんですが、結論は読み手に委ねるところがもあり、読者への信頼を感じます。がっちりとした感じではなく、どんな風にとってもいい。任せるよ、という感じで、そこにあるのはやさしさなんだと思います。
今はギスギスするもの、インパクトの強いもの、批判的なものが目につきがちですが、そういうものばかり見ていると哀しくなってしまいます。
「『違う』から『ダメ』」なんじゃなくて、もっと包容力のある物語です。今の若い読者さんたちにも必要な物語がたくさんあると思います。

■PlanetHandのこれまでとこれから、どんな場所にしたいですか?
いろんな人がダイレクトに自分の声を出していける、人が交わるところにしたいです。個別に活動している作家さんたちが、集まってつながるような場所。買い物をすることや展示を見ることでお互いを知ることができるような。
作家さんの創作意欲を刺激するのはなんだろう? と思いながら、春夏秋冬1年を通じて安房さんの展示・企画を続けていこうと思っています。
安房さんの企画はまだはじめたばかりです。大人も子どもも楽しめる、読みやすくとっつきやすい素敵な作品があることを作家さんに知ってもらい、また触発されていい作品を作られるきっかけにもしてほしいです。
今は新刊書籍でもすぐに店頭からなくなってしまいます。
安房さんの作品がこのまま知られなくなってしまうのは哀しいです。まだ読んでいない人がいろんなクラフト作家さんの作品を通じて安房さん作品を好きになったり、お好きなかたがクラフト作家さんの作品を買ったりという交流の中で、またそこから読書体験が広がっていく場所にしたい。ファンにも、ファン以外にも向けた活動をしたいと思っています。
お客さまを獲得するというより、作品を通じて縁がつながっていく場所にしたいです。

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物語のイメージから生まれた作品の数々

貴重なお話を聞かせていただきました。
やしまさんのお話を聞いていると、人と人を本がつなげること、それが広がっていくことへのポジティブな可能性を感じます。もうお亡くなりになってしまった作家の物語を語り継ぐこと、作品を介した交流の場を作ること。それは作品と作家の命を永らえるとても有効なやり方なのではと思います。
その熱意に心が揺れ動かされる気がしました。
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