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あなたは(わたしは)ひとりではない——『彼女たちの部屋』レティシア・コロンバニ

彼女たちの部屋

彼女たちの部屋

作者のレティシア・コロンバニはフランス・パリ生まれの映画監督・脚本も手がける小説家である。映画監督として制作した『愛してる、愛してない…』は日本でも公開された。2017年に発表した初小説作品『三つ編み』はフランス国内だけで100万部のヒットとなった。今作はコロンバニにとっての2作目の作品となる。
弁護士として着実にキャリアを積み、誰もが羨むような華やかな世界に暮らし、一見「成功した」女性だと誰からも見られていた主人公ソレーヌ。しかしクライアントが敗訴したのち飛び降り自殺をしたことがきっかけで、燃え尽き症候群からうつ病を発症する。カウンセラーからの薦めで、「女性会館(パレ・ドゥ・ラ・ファム)」という女性保護施設で週一回、1時間の代筆業のボランティアを始めた。施設にはさまざまな国からパリへ「逃げて」きた女性たちが集まっていた。あまりの境遇の違いに、はじめは躊躇うソレーヌであったが、徐々に施設の女性たちと心を通わせてゆく。

作者のレティシア・コロンバニが脚本も手がける映画監督でもあるということから、視覚的な表現が非常に上手いと感じられる。最初にクライアントが自殺する凄烈なシーンまでもが、非常に視覚的で、美しい映像としてありありと想像できる。
ソレーヌは弁護士業で培った文章作成能力を使って「代書屋」を始めるが、暴力と貧困に苦しめられた女性たちはなかなか心を開いてくれない。また彼女たちからの依頼は彼女らの人生に関わる、重く辛いものばかりで、ソレーヌはくじけそうになる。しかし施設にいる女性たちへの思いが再び彼女に筆をとらせる。
合わせて、ところどころに1920年——つまりは100年前——のブランシュ・ペイロンという女性の物語が挿入される。ブランシュは実在した女性で、貧困から女性を守るべく1925年にこの「女性会館」を作った人物だ。
普通のパリジャンが知ってはいても「見ないこと」にする移民や女性たちの貧困が露わになるこの会館は、彼女たちを守る屋根であり、あたたかなたき火でもある。ソレーヌもまた、彼女のことなど見向きもしない普通のパリジャンであり、二つの世界は交わらないはずだった。
登場する女性たちはみな餓えている。食べ物にではなく、愛情にである。ここにいてもいいのだという安心感と、自分を受けいれてくれる存在なのだという思いが、ソレーヌと女性たちをつないでいく。
ウェルメイドな物語ではないか、という批判もあるかもしれない。いかにも良くできたお話だ、と。
しかし実際コロンバニは女性会館を小説の舞台とするために取材した際、この女性会館がどれだけ女性たちの救いとなっているかを実感したのだという。登場する人物たちはそのままではないにしろ、モデルがいるようだ。彼女たちの人生はどれも辛く苦しいものであり、カウンセラーや医者であっても治すことの難しいトラウマと諦念がつきまとっている。しかし、命さえあれば、人生は再び始めるはじめることもできる、という熱いメッセージがこの本から発せられているように思う。「諦めないで欲しい」——そんな強い言葉がこの物語から聞こえる。
この本が広く受け入れられた理由は、その非常にポジティブな「力」なのではないだろうか。

三つ編み

三つ編み

コロンバニの第一作『三つ編み』はインド・イタリア・カナダの三人の女性の人生の物語である。
合わせて読んでみて欲しい。